【対談】#01 現代における祭の意義、目的とは -後編-

祭MAGAZINE

祭の本質的な価値に迫ることは、祭をとりまく課題や解決策を考えるきっかけとなる —

祭エンジンでは、様々な立場のゲストをお迎えし、代表の宮田との対談を通して、あらゆる視点から祭を深ぼり、祭の本質的な価値について考えていきたいと思います。

第一弾では、祭や神社に深く関わる、日本文化研究家・吉木誉絵さんをゲストにお迎えし、「現代における祭の意義、目的について」というテーマでお話をお伺いしました。
今回は、対談の後半をお届けします。

前半はこちら

〈対談者プロフィール〉

吉木誉絵(よしき のりえ)
慶應義塾大学大学院法学研究科修了。NPO法人外交政策センター研究員。神職。コメンテーターとしてメディアに多数出演。三児の母。著書『日本は本当に「和」の国か』(PHP研究所)

宮田宣也(みやた のぶや)
横浜市栄区出身。一般社団法人明日襷(アシタスキ)代表理事、祭エンジン代表。
神輿や神棚の修理・製作、祭文化の活性化事業を行う他、全国各地の祭やヨーロッパへの神輿渡御など海外でも活動をしている。

日常で絆を深め、大切な日に心を合わせる

宮田:先ほどお話しにも出た「日本人は同調性が高い」というのは、祭の中でもとても大きな要素としてあるんですよ。例えば、お神輿は各々が好きなように担いでいたら全然面白くないんです。両隣や反対側にいる人たちのことを想像し、信じる気持ちをもって、動きやリズムを合わせていきます。リズムや拍子の入れ方などは各地で工夫されていますが、息がぴったり合ったその瞬間はトランス状態になっていて、お神輿が重く感じないんですよ。それがとても気持ちよくて、その一瞬のためにお神輿を担いでいると言ってもいいくらいなんです。

吉木:そうなんですね!確かに、お神輿を担いでいる人って皆さんそんな感じですよね。

宮田:逆に、合わないとすごく苦しいんです。心と体が繋がって、複数人と心がひとつになっているという感覚が、棒を伝わって自分の体に入ってきた瞬間に、お神輿が軽く感じるんです。さらにすごいことに、心がひとつになって息が合っているときには、お神輿は美しく動いていて、お神輿を見ている人たちにも、魂の揺さぶるような感動を与えられるんです。もし息が合っていないと、がちゃがちゃしているだけだな…という印象を与えてしまいます。

吉木:合ってないことなんてあるんですか?

宮田:ありますあります!実はけっこうあることなんです。息を合わせるために、しきりという人が声をかけたり、周りの人が、背の高さのバランスや力加減を見ながら、苦しそうな人がいるから場所を交代しようとか、声をかけたりして微調整をしながらお神輿は運行しているんです。

心をひとつにできるというのもお神輿の醍醐味ですが、それだけではなく、神様を背負っていること、そして年に一度の祭の日にのみ、お神輿があがるということ自体が素晴らしいと思います。頻繁にやっていたらそこまで意味を見出せないと思いますし、年に一度だけ味わうことができる感情があって、つまり、その日にしか会えない自分に会いにいっているんですよ。

祭の日のために「ケの日」にコミュニティ形成ができているかも重要なんです。もし毎月の神社清掃とかで仲良くなっていて関係性ができていたら、祭の日に心を合わせられると思います。年に一度の祭の日しか会わないとなると、それがなかなか難しい。

吉木:心を合わせるためにも、先ほど言っていた神社清掃はいいですね。

近くにいる人との繋がりは生きるうえで重要

吉木:最近はマンションが増えてますよね。そして近所付き合いがなくても生きていける感覚があります。一軒家の場合、多くの人はお隣や前の住宅の人に挨拶をしていると思いますが、マンションだと知られることが少し怖いと思ってしまい、隣人と知り合わなくても別にいい、となっちゃうんですよ。人の出入りが激しい都心では、近所でコミュニティを形成するのってなかなか難しいような気がします。

しかし、災害時などの非常事態においては、やはり人と人の助け合いは不可欠です。例えばコロナのような大変な状況下では、近所の人との助け合いの重要性を感じたことがあります。

友人がコロナに罹患してしまい自宅療養をしていたそうなのですが、外に出られなくても近所の人が食べ物を持ってきてくれたおかげで、孤独を感じることもなく、大変有難かったと言っていました。その友人はずっと同じ場所に住んでいることもあり、近所で親密度の高いコミュニティを形成していました。しかし、ご近所付き合いはご挨拶程度という人の場合、助けを求めづらいですよね。友人の話からも、助け合えるコミュニティが近くにある人とそうでない人の差を感じましたね。

また、東日本大震災のときに現地に行った人が言っていたのが、震災直後、コミュニティによる差がすごくでていたということです。あるコミュニティでは、既に繋がりや信頼関係ができているから助け合いもスムーズで、支援物資も迅速に潤沢に行き渡ったけれども、他方ではそうでなくて困っていた。共同体や集団でうまく乗り越えている場合と、そうでない場合の差が如実に出ていたそうです。

東日本大震災のような災害で、共同体の力や、人との繋がりの大切さを再認識した人が多かったですよね。
コロナ禍においても、人と会いづらい状況が続き、人と直接対面することや、人との繋がりの大切さに多くの人が気づき始めています。そういうところに祭の原風景を思い出します。祭が行われる当日だけでなく、むしろ日常において人との直接的な関わり合いを大切にその繋がりを再確認する場として祭に関わって行くのも良いかもしれませんね。

宮田:最近、神社清掃に近くのマンションに住んでいる人たちが来るようになったんですよ。最近のトレンドなのかもしれないですが、マンション内でコミュニティをつくるための施設が併設されていて、敷地内は人と人とが顔を見合わせやすい設計にもなっているそうです。そういうマンションに住んでいる人たちが、地域にも積極的に参加しようと考え、神社清掃の活動に加わってくれるようになりました。家族連れで来てくれるようになって、そこからまた友だちを呼んで、どんどん拡がってきています。一緒に太鼓の練習とかもしています。

地域コミュニティに参加することで毎日が豊かになるし、近くに友だちがいた方が楽しいし、何かあったときにも助け合える人たちがいて安心もできる。コロナ禍では、近しい人たちとの繋がりをいかに強くするかということに重きをおかれるようになり、コミュニティの大切さにも気づくきっかけとなったんですよね。日々築いてきた繋がりの先に祭があるので、意味、目的を意識したうえで祭ができるようになっていく。そういう意味でもコロナ禍はこれからの祭にとっては良い機会になると思います。

吉木:そうですね、ここからチャンスに変えないといけないですね。

祭のパワーを信じ、受け継いできた

宮田:コロナが落ち着いたら、多くの人は祭をしたくなると思います。東日本大震災のときも被災地では3年ほど祭ができなくて、お神輿もあがっていませんでした。しかし、復興に向けて、さあ何かをしようと考えたとき、まず祭をしようと立ち上がったんですよ。災害などの大きな困難を乗り越え、日常に戻ったときに、地域を盛り上げるために祭をしたいと思うのは、心に祭があって、再構築するための強さになっているからです。これは、我々が維持し続け、次世代に届けるべき価値の一つだと思います。コロナ禍で自分の住む地域や身近な人たちを見直すのと同時に、祭の力を実感できると良いなと思います。

吉木:共同体や地域コミュニティを維持するためのシステムという観点や、大自然に宿る神様に祈りを捧げてきた日本人の古来の在り方に触れながら、祭についてお話ししてきました。もう一点、祭に関して大事なことは「祖先や先代たちが守り、受け継いできたものだから私たちも大切にし次の世代に繋ごう」という気持ちと、やっぱり何と言っても、「祭は楽しい」という、シンプルで純朴な気持ちです。祭に様々な考察をしましたが、楽しいという気持ちが昔から根源にあるんですよ、楽しくないとずっと続けられないですからね。

宮田:祭は楽しいし、心にグッとくるものがありますね。祖父が本気でお神輿を担いでいたことや、祖父の友人から「爺さんがいてくれたからこの地域が盛り上がったんだよ」みたいなことを聞くと、今、楽しくわいわい、神社清掃を取り組んでいるようなコミュニティが、前の世代にもきっと存在していて、その時にも祭や地域を盛り上げようという想いがあって、それを私たちの世代が今、受け取っているんだろうなと思います。
そうやって大昔から変わらない想いがあって、今も神社や祭が存在しているんですよね。

これから先どのようにして祭を守っていくかを考えるときに、時代に合わせたアップデートは必要かもしれませんが、それって全く新しいことをしなければならないという話ではないと思います。祭の本質は昔から変わらないし、もうそれを感じている人もいて、だから、観光化しようとか新しいイベントを催そうとか、奇抜なアイデア差し込もうとか、そういったことではないんですよ。シンプルなほどパワフルだということです。

そして、何のために祭をするのかを考えるべきだと思います。歴史を紐解くと昔の人は祭をとても大切にしていたことがわかります。そして、見えないものに対する想い、地域に対する想い、もしかすると私たちへの想いがめちゃくちゃ詰まっている場所が、神社なんですよ。

神社は気軽に関わることのできる身近な存在

吉木:神社って気軽で身近なものだと思います。散歩の途中でちょっと寄っていく人もたくさんいる。誰にでもオープンな場所です。少し立ち寄って、手を合わせて神様に挨拶をしよう、みたいなレベルで神社に関わっている人は大勢います。しかし、祭に参加する、しかもお神輿も担いでいるという人は、特に都市部ではかなり限られてしまっています

日本中に神社は多くありますし、そこに気軽にお参りに行く人たちがいます。そういう人たちは祭にも携わってくれる気がします。その潜在的に祭に参加してくれそうな人たちをどう巻き込んでいくかも大事な課題だと思います。

宮田:僕も掃除していると毎回、神社に来ている老夫婦と会います。参拝しに来ていて、「いつもありがとうね」と声をかけてくれるんです。神社清掃を始めて、そういう日課で神社に来ている人たちもいることを知りました。
だから、祭を続けることだけが神社ではないんですよ。毎日来ている人が心を休められる、神社はそういう場所で、地域コミュニティを維持し続けることが大切なんです。神社を観光地化して常にたくさん人がいて、お賽銭が増えることは、おそらく、あの老夫婦のような人たちのためにはならないと思います。

吉木:神社って母親的な存在でもある場所だと思うんですよ。いつも帰ってこられる、ふるさと的な場所。あと、各地の神社には様々な神様がいて、それぞれ願い事をきいてくれたり、ご利益もある。ご利益っていうとなんだか世俗的な感じがしますが、良い意味で親しみやすく、また、個人の願い事を聞いてくれる存在はすごく身近に感じるんですよ。そう、例えば母親が幼い子どもの要求にできるだけ耳を傾けようとするような感じと似ています。神社ってそういう誰にとっても温かな場所だと思います。いつ参拝に来てもウェルカムで、願い事を聞いてあげようという姿勢があるので、本当は気軽に行ける場所だと思うんですよね。いい意味で敷居が低いんです。そういうところをもっと活かしながら、神社に来る人を巻き込んで祭に繋げていくのが良いかもしれませんね。

宮田:たしかにそうですね。いやいや、お話が盛り上がりますね(笑)

吉木:本当ですね。このテーマって奥深いですね(笑)

宮田:要素がたくさんありますからね。祭は歴史の中で変遷も多く、現代で考えると社会構造の変化と課題、コロナのようなこともありますし。地域コミュニティの形成、維持についての話の中でも、祭や神社の役割は多く、パワーがあることもわかっていて、私は祭を行っているという立場、吉木さんは神職という立場でトピックがたくさんあって、探求しがいがありますね。

吉木さんとの対話で生まれた見解をお伝えすることで、この対談記事を読んでくれた方が「神社ってこんな気持ちで行ってお参りをすれば良いのか、神社に行ってみようかな」と思っていただけると良いなと思います。

吉木:神社って敷居が低くて、気軽に行けるような場所だと言いましたが、それは私が神職だからそう思うだけで、他の人からすると、意外に思われるかもしれませんね。

宮田:一緒に掃除している子に「どういう気持ちで掃除すれば良いんですか」と聞かれたことがあるんですよ。神様に対して失礼がないように、と考えるのも良いことですが、だからといって正しさを伝えるのではなくて、こう考えると良いのかもね、とか、昔の人たちはこうしてたんだよ、みたいなことを伝えると、しなければならない、という義務感ではなく、こうしたらもっと心が清らかになるんだな、というように、自らの神社への接し方が見つかると思います。
神社にまつわるよくわからないものが、接しづらさを感じさせてしまうこともあると思うんですよ。

吉木:心が清らかであるというのは、すごく大事なワードですね。日本人は清らかさを大変に重視してきたと思います。穢れ(けがれ)を避ける文化があって、心が清らかであろうとする。これは神話の時代から変わらないんですよ。神社に行くと気持ち良くてすがすがしい気持ちになります。心の空気清浄機みたいな…神社は清らかな気持ちを取り戻せるような場所ですよね。

宮田:そうですね。あと、神社って誰かが掃除しているから綺麗なんですよね。人の力と神様、自然が掛け合わさってつくられる空間で、来る人たちが気持ち良くなったり、精神が安定したりするんですよ。

掃除する前は、神社って結構汚かったんですよ(笑)荒れてました。しかし、人の手はそれを変化し得る。このことを含め、今後、神社とどう関わっていくべきかをひとつでも提案できれば良いなと思います。

 


吉木さん、ありがとうございました!

祭の意義や目的は、地域共同体の絆を深め維持していくことで、今も昔もきっと変わりません。風土の特徴や国民性からみても、祭は日本人に合っているため、ずっと続いてきたのですね。過去を遡ると、祭がただ楽しいだけではなく、その本質的な価値をあらためて知ることができます。

社会構造の変化等で、地域共同体の絆がますます弱体化している現代だからこそ、近くにいる人たちとの繋がりや絆を深めるためのひとつの手段として、祭を考えるのも良いと思います。

また、神社は神聖で厳かな場所だと認識している人も多いと思いますが、誰もが気軽に行っても良い場所なんですね。挨拶をしたり、散歩の目的地にしたり、神社清掃をしたり、そうやって日常的に関わっていくことで、いつのまにか神社が自分の居場所のひとつになり、住んでいる地域への愛着をさらにもてるようになるかもしれません。
祭を次世代に繋げていきたい、守りたいと考えていても、何をすべきか分からないと思う人もいると思います。まずは近くの神社に足を運んでみるのが良いのではないでしょうか。新たな出会いや、何か感じるものがあるかもしれません。

祭の当日だけでなく、普段から祭や神社に関わっていると、絆が深まり、 さらに祭の日を楽しむことができます。なぜ祭をするのか、多くの人がその意義や目的を感じながら関わり、大切にすることで、今後も日本の文化として継承されていくのだと思います。

 

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(text by 角屋桃子/祭エンジン事務局)

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